書評「直感力」

   

今回は、棋士・羽生善治さんの著書をご紹介します。将棋の世界は、時間制限の中で数多の手を読み、相手の一手に対する自分の手をシミュレーションしています。こうした厳しい対局において必要となるのが、「読み」「大局観」、そして、「直感」であると著者はいいます。そのうち、「直感」についての羽生さんの考えをまとめたのが本作です。

直感は、経験の蓄積により磨かれていきます。多くの情報が多くの経験を通じて蓄積されていくことで、脳内の情報量が増え、直感の精度が向上していきます。年齢を重ねるほど経験が豊富になっていくので、自然と直感は磨かれていくといいます。また、若いうちは意識のもとで思考を重ねる「読み」をベースに次の一手を決めていくのにたいし、多くの対局経験を重ねていくことで、「直感」に頼った一手をとるようになっていきます。

こうした多様な経験をしていくには、多様な価値観を理解、受容し、身のまわりのいろいろなことに関心を持つようしておくことが大切になります。関心の幅を広く持ち、多様な経験の選択肢をもっておくのです。様々な体験を蓄積していくことで、直感のベースとなる情報量が豊富になっていきます。

直感を鋭くするには、「リラックスした集中状態」を保つことが大切になります。リラックスするためには、何も考えない余白の時間を意識的に設けるようにしておきます。また、マインドセットとして、細かなことを気にしすぎないようにするのがポイントです。ざっくりと自分のペースで、できる範囲で、取り組むことが大切といえます。つまり、無理しすぎないようにするのです。また、歩いて身体も動かすことも重要です。しかし、歩かなければならない、と自分を縛りすぎることなく、気が向いた時に歩く、といった取り組み方をしていくほうがいいです。

集中状態へと自分を移行させるためには、焦りすぎないことが大切です。いきなり深い集中状態に入ろうとすると、焦りからかえって集中できなくなってしまいますので、徐々に深い集中状態へと潜っていくイメージで焦らないのが重要です。まずは、落ち着いてリラックスすることからはじめて、ゆっくりと目の前のことだけで頭を一杯にしていく感覚を持つと良いのではと思います。

著者は、アウトプットの重要性についても指摘しています。情報入力よりも出力を重視するのです。見る、聞く、感じるといった感覚系領域よりも、手や足、口を動かす運動系領域の活動を多く行うようにします。また、多く蓄積された経験を思い出し、使おうとする時間を持つ必要があります。また、必要なタイミングで経験を活用できる様になっておくことも勝負事には必要です。他者の対局を眺めながら、自分ならどんな手をうつのか、なぜこの棋士はこの手を選んだのかをリアルタイムで思考する光景は、その場その場の必要なタイミングで知識をアウトプットをしているわけです。必要なタイミングで必要な知識を使えるようにしておく訓練をしているのです。

スランプや不調の際に、どのように対局に臨んでいるのかについても、羽生さんは言及しています。過去の成功体験をベースに困難を乗り越えるヒントを見出したり、勝負にこだわりすぎず、「自分の価値観を貫くこと」の重要性も指摘しています。

本書は直感力についての鋭い考察だけでなく、自分の生き方についてもヒントが得られる良書と言えます。ぜひ、ご一読ください。

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